Ren-ten-koh

神の杞憂

 いくつもの〈調停者ルーラー〉の事務所が動き、〈神〉の仕掛けた戯れに本気で挑んでくる。本気になってもらわなければ〈神〉としても面白みがないのだし、人類ヒト側にしてみても本気にならなければ〈"ロスト・エルサレム"〉が滅んでしまう。
 ブラウン管テレビジョンの山に囲まれて、〈神〉は――ルキアは頬杖をついていた(だが、本来肘を置くであろう空間には何もない)。
 逃げる一般人を誘導する〈調停者ルーラー〉たちや、魔法陣を破壊に向かう〈調停者ルーラー〉、そのサポートをする〈調停者ルーラー〉たちが〈"ロスト・エルサレム"〉を普段とは違う情景に塗り立てていた。それを、逐一、ブラウン管テレビジョン越しにルキアは見ている。
 ――〈旧日本〉の、それこそ年月で言えば何十年も昔の歌謡曲を口ずさんでハミングしてしまうくらい、〈神〉は上機嫌だった。
 ルキアは人間が大好きだ。
 大好きだから、こんなことをする。
 過去、現在、未来の出来事を全てフィルムに刻み、それをずっと眺めている存在が〈神〉である。
 自分の創った物語を、延々延々延々延々――見続けるのだ。なので、厳密に言えば彼ないし彼女が〈"ロスト・エルサレム"〉に災いをもたらすのも必然であり、当然なのである。そして、彼ないし彼女はありえないはずの期待をする。自分の創った物語が自分の創りえなかった物語へ変わる瞬間を。

「――幸せに生きても、その生に意味はあるというのか――〈人間ニンゲン〉?」

 避難する一般人を見て、少し皮肉を込めて呟く。
 ひらり、と、ルキアの頭上から羽根が舞い落ちてくる。
 それすらもフィルムに刻まれた物語であるかのように、驚きもせず上空――天井すらも存在しない空間を見上げた。

「これから始まる物語は、奇跡であり喜劇であり悲劇。幕が開いたなら、フィナーレへ向かって一斉に始まる馬鹿騒ぎ」

 演劇の台詞のように朗々と謳い上げる〈神〉。
 羽根を持つ少女は、ルキアの遥か上空で同じように続けた。

「そのために、私はたくさんのシナリオを書き、伏線をはって、キャラクターを作ったのです。すべて――あの大団円のために」

 そして――少女とキミ・・の目が合った。