喫煙所でのんびりしていたハルアキラを回収して、ネリヤカナヤ急行の発車するホームに急ぐ。駅のホームは今から旅立つ旅人や、やっと極光皇国に帰ってこられたことに安堵する人でごった返していた。その合間を縫うようにして進みながら、ステラナジカたちは進んでいく。
ホームには、列車というよりも小山のような白いシルエットが鎮座していた。
あれが、ネリヤカナヤ急行である。
これほど大きな鉄の塊がどうやって動いているのかが、ステラナジカには理解できないのだが、動力源は
発車が近いことを告げるアナウンスがホームに響く。
駅員にチケットを見せ、滑り込むようにネリヤカナヤ急行に三人が乗りこんだ直後、自動扉がゆっくりと音を立てて閉まった。
直後、ゆっくりと列車が動き出す。
「セーフ! ギリギリセーフだったね!」
ほっと胸をなでおろすステラナジカ。
「本当にギリギリだったね……それもこれも、師匠がダラダラしているからだよ」
「ダラダラとかしとらんわ……さて、爺らの座席は三等車じゃったな。これから七日間、座ったままで寝にゃならんとか、爺、生きて帰りつけるかのぅ……」
ぼやくハルアキラの背中をエリウユが気合を注入するように叩く。
三等車は、ネリヤカナヤ急行の中でも一番ランクが低い座席車だ。車両に座席が並べられただけの簡素な造り。それでも、座席の座り心地はステラナジカのアパートのベッドよりも柔らかい。
二等車はベッドがついている寝台車、一等車になると豪華な個室になるらしいが、ステラナジカの稼ぎでは遥かに遠い存在だ。それに、一等、二等車に乗る様な人間は、もっぱら貴族かそれ以上の地位を持つ者と決まっている。そんな奴らに囲まれるくらいなら、三等車で十分だというのがステラナジカの考えだ。
三等車は、三〇つながった車両の最後尾に繋がる貨物車の前、五車両だった。
しかも、ステラナジカたちの座席は三等車の最終車両、しかも、後ろから二列目の奥だ。
三等車には出張帰りのサラリーマン風の男性や、旅行帰りらしき老人、子連れの親子、恋人らしき男女――実に様々な人々が乗り合わせている。人種も様々で、肌の黒いものや白いもの、耳の丸いものやとんがっているものなど、多種多様だ。
やっと自分の座席に辿り着いたステラナジカは、安堵から大きく息を吐き出した。
幅の広い車両に並んだ座席は、左右に分かれて十席ずつ。その窓際の席がステラナジカの座席だ。その隣にエリウユ、ハルアキラと続く。勿論、今日のネリヤカナヤ急行は満席なので、その隣には見知らぬ乗客が新聞を読んでいた。
「今日は疲れた……すごく疲れた……!」
「ステラ、よく頑張ったね」
隣に座ったエリウユが、ステラナジカの頭を撫でる。
「うん、僕、頑張ったよ、エリウユ!」
「よしよし、えらいえらい」
「もっとよしよししてー」
「はいはい」
ハルアキラが何か言いたそうな目でステラナジカを見ていたが、結局何も言わなかった。彼も彼で疲れているのだろう。
動き出した列車の揺れが逆に心地よくて、ステラナジカは空腹も忘れてすぐに寝息を立てはじめてしまった――。